1.「観光業界で働く意義」を考える
インバウンドとは?
いまやビジネスを語る上で欠かせないキーワードとなったインバウンド。本来的には、「入ってくる、内向きの」を意味しますが、ここでは「訪日外国人観光」を指します。
この言葉が使われるようになったのは2010年代はじめでした。政府が観光立国を目指すと宣言した2003年からはしばらくたっていましたが、その後2015年には流行語大賞のノミネートに入り、市民権を得ました(ちなみにその年の大賞はインバウンドに関連深い「爆買い」でした)。
なお、日本人が海外へ出かける場合はアウトバウンドと呼びます。
インバウンドの現状
2024年の春、世界中の旅行者は海外旅行を謳歌しています。
世界保健機関(WHO)が「新型コロナウイルス(COVID-19)はパンデミック」と宣言したのが2020年3月、世界のほとんどの国が鎖国状態になりましたが、それから3年後の2023年に世界は再び外国人旅行者に門戸を開き、今日に至っています。
パンデミックの期間、訪日客数は激減しましたが、再開後は予想よりも戻りが早く、2023年の年間訪日客数は2500万人を超え、3118万人だった2019年の8割程度まで回復しました。
円安も追い風になっており、2024年の上半期(1月~6月)の訪日客数は1777万7200人(2019年同期比6.9%増)となり、過去最高を記録した2019年を100万人以上上回っています。今後もインバウンドは更なる盛り上がりが期待されています。
ところでなぜ日本は「観光立国」を目指しているのでしょうか?
ここからは観光/インバウンドに取り組む意義を解説して参ります。
観光/インバウンドに取り組む意義
観光業と聞いてすぐに思い浮かぶのは、旅行会社や宿泊施設、土産物店などだと思います。しかし、お土産の原材料を作る生産者や、レストランで提供される魚を獲る漁師など、直接的な旅行業以外の多くの産業にも経済効果があり、雇用の創出にも貢献しています。
出典:旅行消費が日本国内にもたらす経済波及効果(2019 年)「令和3年度版 観光白書」(国土交通省)p.312 資料37
2019年の旅行消費額は29.2兆円で雇用効果は260万人。経済波及効果も含めると、その額は55.8兆円、雇用誘発効果は456万人にも及ぶとのデータが出ております。
出典:旅行消費が日本国内にもたらす経済波及効果(2019 年)「令和3年度版 観光白書」(国土交通省)p.312 資料38
観光業界は他業界と比較して女性比率・外国人比率が高く、ダイバーシティの面で貢献している業界です。
下記のデータによると「宿泊業・飲食サービス業」は、「医療・福祉」に次いで2番目に女性比率が高い業界となっています。
出典:総務省統計局ホームページ https://www.stat.go.jp/data/e-census/guide/basic/result/chart3.html
また、日本で働く外国人の11.8%にあたる20万人以上の方が「宿泊業・飲食サービス業」に従事しています。特にインバウンドに取り組む際には、ターゲット国出身者の力が不可欠であり、外国人の方が能力を発揮しやすい業界と言えるでしょう。
出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和2年10月末現在)
日本では少子高齢化が社会問題となっており、特に地方では深刻な状況となっています。
そんな中で注目されているのが「観光」です。人口減少を補うために、観光客誘致による地方経済活性化が期待されています。
観光庁のデータによると、定住人口一人当たりの年間消費額は130万円で、その一人分の人口減少を補うためには、外国人旅行者だと8人分、国内旅行者(宿泊)だと23人分に当たるとのこと。地方創生のために、インバウンド誘客に注力するのも頷けますね。
前述の通り、今後日本は人口減少により市場が縮小していく見込みですが、世界全体をマーケットとして捉えると「観光」は急成長を遂げている産業です。
UNWTO(世界観光機関)によると、2010年には9.5億人だった世界の観光客数は、2018年には14億人まで急増しており、2030年には18億人まで伸びると予測されております。
また、世界の輸出区分では観光は「燃料」「化学」につぐ、第3位の産業となっています。
少し分かりにくいのですが、訪日旅行客が日本でお金を使うことは、外貨を獲得すること、つまり「輸出額」に相当します。2019年の製品別輸出額を見ると、訪日外国人消費額は「自動車」「化学製品」に次ぐ、輸出額第3位の産業となっています。
また、2030年の訪日外国人消費額の目標値は15兆円としており、現在の「自動車」の輸出額を超える大きな成長が期待されています。
まとめると、訪日外国人を誘客することは外貨の獲得、つまり国の成長に繋がるのです。
以上のような理由から、観光は日本の将来を支える最重要の産業として期待されているのです。
冒頭でもお伝えした通り、現在インバウンドはこれまでにない盛り上がりを見せており、今後も更なる成長が期待される業界です。
皆さまには観光/インバウンド業界に身を置いて「観光立国」をけん引していただけることを期待しております。