今回は、岩手県釜石市の地域DMOである「株式会社かまいしDMC」で、代表取締役を務める河東(かとう)さんを取材させていただきました。
「サステイナブル・ツーリズム」に関する先進的な取組についてもお伺いしましたので、ぜひご覧ください。
釜石とは?
釜石市は、岩手県の南東部に位置する人口約33,000人の市です。
世界三大漁場の一つである三陸漁場の中心港として栄え、近代製鉄発祥の地として発展してきました。
2011年の震災では、津波で町が半壊し、そこからの復興を経験しているまちでもあります。
かまいしDMCの成り立ちは?
かまいしDMC設立のきっかけは、2019年ラグビーワールドカップの釜石開催が決まったことです。
ワールドカップが開催されると外国人の方がたくさん訪れ、従来の観光協会だけでは対応が難しいことから、DMOが必要だろうという考えに至り、2018年4月に「株式会社かまいしDMC」が設立されました。
また、釜石は「鉄と魚のまち」として発展してきましたが、近年は製鉄や漁業が衰退してきています。
そのことから、新たな基幹産業として「観光振興」が必要だったというのも、かまいしDMC設立の要因の一つです。
かまいしDMCのミッションについて
我々のミッションは「釜石オープン・フィールド・ミュージアム構想」の推進です。
「オープン・フィールド・ミュージアム」とは、エリア全体を屋根のない博物館と見立て、この地での出来事や取り組みについて光を当てパッケージ化することで、その地域に固有の自然・歴史・文化等を学ぶことができるシステムです。
例えば、震災からの復興の過程で活躍した人に光を当て、その方の話を聞くために会いに来るといった「人をキーワードにした観光」がそれに当たります。
人に焦点を置くことで、一般的な物見遊山の観光とは違い、「あの人は今どうしているかな」と何度も会いに来てくれるリピーターにも繋がると考えています。
釜石市はいわゆる“観光地”ではありません。
しかしながら、釜石には、大自然、三陸の食文化・風習、近代化の歴史、防災の学び等の観光資源があり、日本のみならず世界に暮らす人々、そして後世へ守り伝えるべきものが数多くあります。
一方で、鉄鋼業衰退による経済の弱体、高齢化及び人口減少といった課題先進地でもあります。
これらに向き合い、次世代へ繋げる取組みが「釜石オープン・フィールド・ミュージアム構想」なのです。
具体的な事業内容は?
大きく分けると「旅行マーケティング事業」「地域商社事業」「地域創生事業」の3つの事業を行っています。
「旅行マーケティング事業」では、観光関連の調査、修学旅行や研修等の受け入れ、体験ツアーの受け入れ、イベントの企画等を行っています。
「地域商社事業」では、ふるさと納税関連事業、オンラインショップの運営、地域の特産品の活用などを行っています。
「地域創生事業」では、行政からの委託で施設管理(飲食店が入る施設、キャンプ場、津波伝承施設など)を行っています。
「サステイナブル・ツーリズム」の取り組み
釜石では、オープン・フィールド・ミュージアム構想の実現に向けて、持続可能な開発目標(SDGs)の視点を取り入れ、持続可能な観光(サステイナブル・ツーリズム)の仕組みづくりに取り組んでいます。
国際基準GSTCの導入
持続可能な観光の国際基準であるGSTC(グローバル・サステイナブル・ツーリズム・クライテリア)を活用しています。
釜石市は、2018年に国際基準認証機関の一つであるグリーン・デスティネーションズの観光地認証プログラムを採用し、同年には「世界の持続可能な観光地100選」に日本で初めて選ばれ、以降3年連続で選出されています。
また、2019年には「グリーン・デスティネーションズ・アワード」ブロンズ賞を受賞しました。
「受賞」という点が注目されがちですが、本当に大切なことは、国際基準に沿った取り組みを行っていくことです。
まずは、国際基準を「自己分析ツール」として活用し、健康診断のように、自分たちのできていない部分を把握します。
次にその結果を、観光地域づくりの様々な関係者との「コミュニケーションツール」として活用し、これからどのようなアクションをしていくのかを具体的に協議していきます。
そして、最終的な副次的な効果として、環境意識の高い観光客への「プロモーションツール」として働くのではないかと考えています。
漁船クルーズ
具体的なサステイナブル・ツーリズムの取組の一つに「漁船クルーズ」があります。
震災以前、釜石には観光船がありましたが、震災後、復活を望む声も多くありました。
しかしながら、コストの問題もあるため、新たな投資の必要がない「漁船クルーズ」を行うことにしました。
通常、日中は仕事をしない漁師さんの空き時間を活用した「漁船クルーズ」は、漁師さん自身の収入増にも繋がります。そのことは後継者ができることにも寄与すると考えています。
また、漁師さんたちにとっては何の変哲もない釜石の海を、観光客の方が良いと褒めてくれることで、漁師さんが自分たちの地域に愛着を持つきっかけにもなると好評です。
▼釜石湾漁船クルーズ
https://visitkamaishi.jp/program/geo/2149/
二酸化炭素排出権の付与
釜石は海が有名ですが、実は90%が山林で、ほとんど活用されていない状況です。
そこで、かまいしDMCでは、山林は二酸化炭素を吸収してくれる資源であると考え、排出権を購入し、研修等で訪れた方に付与する取り組みを行っています。
なぜ「サステイナブル・ツーリズム」?
前述の通り、釜石はいわゆる“観光地”ではありません。
そのため、観光振興をスタートするにあたって、どういう観光をやっていけばいいのか、何を共通の目標にしていけばいいのかと考えていく中で、基準づくりとして「サステイナブル・ツーリズム」という考え方を取り入れることにしました。
SDGsの「誰も取り残さない」という考え方が、震災で多くのものを失った釜石の考え方にマッチしたのではないかと思います。
コロナ禍でのインバウンドは?
コロナ前は、ラグビー関連で欧米豪からの観光客の方に来ていただき、震災関連ではハワイやインドネシアとの取り組みを進めていました。
残念ながら、現在は外国人観光客の方はほとんどいらっしゃいませんが、アフターコロナに向けて次のような取り組みを行っています。
YouTubeチャンネルを設け、震災からの復興の取り組みの紹介動画や、特産品の紹介動画などを英語で制作しています。
▼かまいし観光動画館(YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/channel/UC-IojBqnTjIWVPXyNxh0lWA
また、東北の他のDMOとも連携し「みちのく潮風トレイル」を活用した、外国人観光客向けのトレッキングプログラムなどを造成しています。
現在力を入れている取り組みは?
コロナの影響で観光客が減少したことで、市内で特産品が余ってしまっています。
そこで、かまいしDMCでは、楽天市場に「岩手釜石オンラインショップ」を立ち上げて、販売を行っています。
実は、釜石には日本一のまぐろ船団を持っている会社があります。
多くを焼津に卸しているため、あまり知られていませんが、釜石のトロは絶品です!
他にも、泳ぐホタテやサバ缶、ウニなどの海産物が売れ筋ですね。
ぜひ一度お試しください!
▼岩手釜石オンラインショップ(楽天市場)
https://www.rakuten.ne.jp/gold/kamaishi-bussanten/
かまいしDMCのスタッフについて
現在アルバイトを含めて約20名のスタッフで運営しておりますが、その大半が「Iターン・Uターン」で構成されています。
私自身もUターンです。
地域内で採用をしてしまうと、地域内の会社から引き抜く形になってしまうこともあり、基本的に地域外から採用を行うようにしています。
他の地域では、外部からの人材に対して、地域の方とのコミュニケーションがうまくいかないといったネガティブな事例も聞かれますが、釜石では、これまでのスタッフの活動の成果もあり、地域の方に頼られる存在として活躍してもらっています。
河東さんからのメッセージ
かまいしDMCは、住民が誇れる地域づくりを「観光」という側面から進める役割を担っています。釜石には、「ラグビーのまち」「近代製鉄発祥の地」「東日本大震災の被災経験」というように、深く掘り下げていくと興味深いストーリーが数多くあるにも関わらず、その資産を活かせているとまでは言えません。これらの物語を「屋根のない博物館」という構想の下、より魅力的な形で多くの人に届けることが、私たちのミッションです。その一翼を担っていただける方をお待ちしています。
DATA
株式会社かまいしDMC
岩手県釜石市魚河岸 3-3
▼かまいしDMC WEBサイト
▼釜石オープン・フィールド・ミュージアム
▼釜石オープンフィールドミュージアムinstagram
https://www.instagram.com/kamaishi_stagram/
▼岩手釜石オンラインショップ(楽天市場)
https://www.rakuten.ne.jp/gold/kamaishi-bussanten/
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